氷の世界のはなし
遠くで重い氷同士がぶつかり合い、どちらかに亀裂が走る。
――その振動で、スカーフェイスは目を覚ます。
静かで、しんと冷たく、鼻の奥をつんと刺すような冷気に意識はたちまちはっきりと覚醒していく。
ここで朝を迎えるのは、7度目。
日照時間は長く、時間は分かりづらい。時計を見れば4時を回ったところ。となりの寝袋はもう小さくまとめられている。
(……今日も、か)
この男と今回の任務を与えられた時、スカーフェイスはおそらく毎晩のように野生の獣と同衾しているような騒音に悩まされるに違いないと思っていた。
実際は、寝入るのも目覚めるのもまるで悟らせぬ手際の良さで、すうすうと少女のような寝息を立てているのを聞いた時には自分の耳を疑った。
スカーフェイスは1人、氷原の風や遠くの波しぶき、そして氷が崩落したりきしんだりする音を聞きながら、この氷の世界に夜の終わりが訪れるのを待っている。
びゅう、と空気が吹き込む音が細く鳴って、バッファローマンがテントに戻ってきた。
「……」
「…………」
そして、ふわりとコニャックの香り。
つられて起き出すスカーフェイスに、大きな手にまるで似合わない小さなグラスが差し出されて、「よう」と、とても短い挨拶の言葉。
彼らの発する言葉意外に何も言葉が存在しないこの場所で、それはたちまちかき消えて行く。
「……オハヨ」
グラスをあおり、芳香が鼻を抜けていく。
何故か寂しくて堪らない気持ちになるスカーフェイスからグラスを取り返し、
「おう」
と、バッファローマンが笑う。
そして朝が始まると、スカーフェイスはふだんの彼自身に戻っていく。
この書き出しが好きなんですけど
書き出した時点で何も考えていない(いつも)ので
思いついたらちょこちょここのくらいのものを
投下していきたいな、というメモ