お父さんは心配性

 スタア☆スタア城2階、賑やかな大広間。集まった人達はみんな着飾って、そわそわと主賓の登場を待っているところ。
「まさかね…」
「あの2人がね…」
 そんなささやきもちらほら。
「俺も聞いた時は驚いたけどな。いい夫婦になるんじゃないか」
 訳知り顔で話すフリックはこんな日も青い。もう意地になっているのかも知れない。
「お前もいい加減村に帰っておちつけよ」
 横からビッケが混ぜっ返したりケンカになりそうになったり。
「かんぱーい!」
 すっかりできあがっている集団もいたり、で。
「え〜、そんなこんなですっかり場も盛り上がっているようですが」
 唐突な切り出しで、壇上に登ったネロとナナミがスピーチを始めた。ネロはちょっと背が伸びたようで、ナナミはとっても元気そう。
「ここいらでですね、主賓のお二人をいよいよお迎えしたいとおもうのですが!」
「みなさーん!準備は良いですかあ?」
「「はーーい!」」
「ちょっと、ナナミ。そのノリちがくない?」
「うるさいわね、もう。はーい、じゃあ、さっそく今日幸せになるお二人の内、むさ苦しい方から登場してもらいましょうねー。せーの…

 ビクトールさーーーーん!!」

 わーーー。
 会場を揺るがす歓声の中、白いタキシードに身を包んだビクトールが登場。ぼさぼさの髪の毛も今日ばかりはピッチリ7:3に…分けたのはフリード。お見せできないのが残念です。
「なんだか、照れくさいな…。みんな、今日はありがとう」
「ビクトールさん、ご結婚おめでとうございます!」
「ありがとな、ネロ。まさかこんなに集まってくれると思ってなかったんだけどな、はは、はは…」
「さて、ビクトールさんはこのくらいにして。とっとと新婦さんに登場してもらいましょうねー!」
 うおおおー!
 さっきよりも気合いの入った怒号が、今度は城じゅうを震えさせた。
「なんだよー、俺はオマケかよー」
 なんだかんだで一番楽しみにしていたりするビクトール、その髪型。何度見直してもその7:3はどうかと…。
 一斉に窓に黒い布が掛けられ、すうっと会場が暗くなる。
 広間の入り口に一条のスポットライトが当てられ、小柄な花嫁の姿を白く浮かび上がらせた。みんな、息を潜めて花嫁がゆっくりと壇上に上がるのを見守っている。一番緊張しているのは、もちろんビクトール。
「えー、それではですねえ、いよいよ新婦さんの紹介です。本日はおめでとうございます、いまのご気分はいかがですか?」
「まあまあじゃな」
「それでは、ビクトールさん。ヴェールをあげていただけますか?」
「おう…じゃなかった、はい」
 おっかなびっくりでヴェールを後ろにおちつけ、ようやく花嫁の白い顔があらわになった。
「ご結婚おめでとうございます、シエラ様!」
 会場中から祝福の歓声が上がる。そう、花嫁は月の紋章の所有者、シエラ長老。ぱっと見は実に可憐な花嫁に見えるけど長老。
「えーっとですねえ、今日はシエラ様のお祝いに、お父上も駆けつけてくれました!」
 ネロの言葉に、会場内が不気味にどよめく。
「おい、ネロ、俺聞いてないぞ」
「こういうのは新郎に秘密にしておいた方が盛り上がるってもんでしょ」
「そもそも、こいつの親父が生きてるなんて聞いてないっての。こうみえてこいつ…」
「あ、新婦さん、これから盛り上がるところですから発雷は控えて下さいね〜。それでは、登場です。おとうさーん!」
 しーん。静まりかえる場内。だが…新婦の父親は姿を現さない。
「おい…」
「どうしたんだ…?」
 不安げにその姿を求めてキョロキョロする参列者達。ふっと壇上に細く当てられたスポットライトに一斉に仰ぎ見ると、そこには…。
「ご紹介します。新婦のお父さん。星辰剣さんでーす」
 場内、割れんばかりの拍手。
 一人、ビクトールは口をぱくぱくさせて、うめいている。
「お父さん、娘さんのご結婚おめでとうございます」
「うむ」
「驚いていらっしゃる方も多いと思いますので、説明させて頂きまーす。真の夜の紋章の化身であるところの星辰剣さんは、真の月の紋章の父親的存在なのですね!いや〜僕も聞くまで知らなかったんですけどね!」
「ちなみに、お母様も今日は見えられてます。真の朝の紋章さーん!」
 ナナミが勢いよく腕を伸ばした先には、円形の盾が。
「ってオイ、それハンナの盾じゃねーか!」
「私も知らなかったが、どうやらそうらしい」
「シエラ、結婚おめでとう。幸せにね」
「ナナミ、口が動いてるぞー」
 ピシャーン。大人気のないヤジに落雷。
「ちなみに、真の夜の紋章と真の朝の紋章が一緒になると、真の昼の紋章になるそうでーす!」
「まんま始まりの紋章のパクリじゃん!」
 ピシャーン。言ってはいけないヤジに落雷。
「それから、シエラ様のお兄さま!真の太陽の紋章の所有者もお見えになってます!」
「あー、…よろしく」
「それって真の雷の紋章じゃないの?」
 ピシャーン。博識なヤジに落雷。
「今日は落雷が多いですね〜。みなさんも気を付けて下さいねー」
「ではそろそろ、新郎さんから新婦に誓いのキスをしていただきましょうか」
「お、おう」
 お〜、やんややんや。
 歓声に押される形で前に出るビクトール。しゃっきりと背筋を伸ばし、壇上でシエラと向かい合った。
「では、新郎のほうから。生涯掛けて新婦を愛し、幸せにする事を誓いますか?」
「ち、誓う」
「では、新婦。とりあえずの間新郎の妻になりますか?」
「そうだな。当分はそれもよかろう」
「なんだよそれ!」
「シエラ様の場合、一生掛けたら大変な事になっちゃうんだから仕方ないでしょ」
「そういうもんじゃないだろうがよ!結構傷ついたぞ」
「こやつのたわごとは良い。式を進めよ」
「はーい、そうします。では、お二人、ずずいと近づいて…」
 息を潜めて、参列者達が二人を見守る中、身動きする者があった。
「その前に、だ。儂に一言言わせてもらおうか」
「…はい?何でしょう、星辰剣さん」
 それは、新婦の父親だった。
「あなた、どうしたんですか?」
 ハンナの盾の後ろでナナミがもそもそ口を動かしているのが、会場の誰からも見えた。みんなは分別があるフリをして、あえてそれには触れない事にした。
「ビクトールよ、儂からお前に言っておく事がある」
「お、おう」
 なにやら感動的な雰囲気。
「儂はこの結婚に反対だ」
「…え?」
「貴様のように、礼儀もわきまえぬ、ガサツで品のない熊男にうちのシエラをやれるか!」
 ピシャーン!ひときわ大きな落雷だったが、それをビクトールはさっとかわしてみせた。それでも髪型は崩れない。
「ちくしょー、絶対そうくると思ってたぜ!今日こそ覚悟しやがれこの出刃包丁!」
「二人で盛り上がっておるところ恐縮なのじゃがな、ビクトールよ。わらわも言っておくことがあっての。実は、わらわも別におんしと結婚などする気はないのじゃ」
 その言葉の意味を、ビクトールはすぐに飲み込めなかったようで。何度も何度も、何かを飲み込むようにのどを動かしてから、ようやく出た声もかすれがち。
「だって、お前…ついさっき誓ったばっかり…」
「うむ、とりあえずの間だけと言ったな」
「短すぎやしないか、その…、いくら…なんでも…」
「相手がおんしではな、こんなものであろ」
「おーっと!平和な結婚式は意外な方向に?ビクトールさん、今の気持ちをどうぞ!」
 ネロにマイクを向けられ、白目がちだったビクトールの瞳に、ある種の感情がともる。
「…オマエ達…最初っからこのつもりでいやがったな…?」
「何いってるの、ちょっとした不幸なアクシデントじゃん!」
「そうそう、結婚式には付き物のアクシデントよねえ、吉貝アナ」
「吉貝じゃないって言ってるでしょ、解説の中野さん」
「だから、あそぶなーっ!しかもキン肉マンネタで!…うお〜っ、今日という今日は俺もキレた!」
「おお〜っとビクトール、星辰剣につかみかかったあ!」
「星辰剣、難無くかわしましたよ」
「まあ、当然でしょうねあ。…おお!?ビクトールがテーブルを持ち上げた!」
「これは、熊そのものですねえ」
「やかましい!」
「こっちに投げないで!うわ!」
 ガシャーン!間一髪、机をよけて舞台から飛び降りるネロとナナミ。それを追いかけてビクトールが参列客の中に飛び込んだ。さらにその後を星辰剣と雷が追いかける。幸せな結婚式風景はどこへやら、阿鼻叫喚の大惨事に…。
「…俺は何をしに来たんだ?」
「わざわざくだらん用事に付き合わせて悪かったな、兄上」
「からかわないでください、長老」
「相変わらずからかいがいのない兄上じゃ。妹はわたさ〜んとか言ってあの熊男を追いかけ回すくらいでないといかんぞ」
「はあ…」
 と言われても…しゃれにならなさそうな怪我人がそここに転がっている気がするのは気のせいだろうか?
「ははは、元気があって良い事じゃの」
「そう、ですか…?」
 困惑顔で場内を見渡すシエラの兄(仮)。たしかになんとなく…みんな楽しんでるようにも見えるが。
「そうじゃ、兄上。今のおんしに必要なものは、なんだと思うかえ」
「はあ…。必要なものですか」
 シエラ兄(仮)がちょっと真摯に考え込んでしまったところに、シエラの解答。
「オチじゃ」
「はあ!?」
 ズビっと背中を蹴られて壇上から真っ逆さま、顔面から着地。そこへ素晴らしいタイミングで本日の新郎が駆けてきて、待ってましたと言わんばかりにその背中を踏みつけていく。しばらくダメージの大きさに悶絶していた兄だったが、のそりと起きあがったその顔には静かな、しかし見る者を身震いさせるような怒りが。
「ビクトールとやら…貴様は、ゆるさん!」
「いいぞー、アニキ〜!」
 はやし立てるギャラリーたちだったが、彼が紋章を発動させようとしている事に気付き、さっと顔色が変わった。
「お兄さん!ビクトールさんだけじゃないんですかあ?」
 果敢につっこむネロ。
「貴様に兄と呼ばれる覚えはない!」
「それ、言う相手違うってば!」
「ええい、面倒だ」
「ぎゃーーっ!?」

 ※某年某月、ラッキィ☆スタアに落雷。城の一角が半壊。そのすさまじい爪痕はいまだに残されている。
 ※真の雷の継承者はそれ以来デュナンに近づきたがらないらしい。


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人生で2番目に適当に書いた文章とかUP。