未知への挑戦 3

 扉を開けると、パーンがいた。
 絶句していると、パーンは困ったように頭をかいた。
「よう」
 じっと真顔で見上げられて、パーンは照れて顔を背けた。その彼の頬に、クレオは手を伸ばして。
 思いっきりつねった。
「ギャアアア!いてて!いててて!!」
 半泣きになってクレオの手をふりほどき、にらみ付ける。
「いきなりなにしやがる、てめえ!」
「ああ、パーンか」
 むしろ驚かされた表情で、クレオ
「お前なあ…」
 恨みがましく頬をさすっていると、今度はその上から優しく手を重ねた。
「パーンだ」
 慣れない距離感に内心たじろぎながら、パーンはどうにか彼女の目に視線を据えると、どういうわけか動揺はすっと収まっていった。
「心配かけた…かな」
「ああ、少しな」
「すまない」
「いいよ…帰ってきたじゃないか」
 そう言って笑った。その笑顔を見て。
「…強いな、お前は」
 心からそう思った。
「馬鹿なことを言う。弱いよ、私は。臆病な女だ」
「ああ、そうだな」
 そう言うと、少し呆れた顔をされた。
「でも、こう言う時は泣くだろう、普通」
 今度は困った顔をされた。
「…まあ、いいよ」
「うん」
 すっとクレオの手が引かれたので、少し名残が惜しかった。
「なあ、私が泣いたらどうするんだ」
「え?」
「私はきっと、もうすぐ泣いてしまうよ。テオ様と坊ちゃん、どちらが倒れることになっても、私は泣いてしまうだろう」
「それでもあんたは、坊ちゃんのことを仕舞いまで見届けるんだろう?」
「ああ」
 それが、彼女に与えられた役割だから。テオから彼女に与えられた。
 こんな女を、誰が弱いと思うだろうか。
「じゃあ、こうしようか。一緒に泣いてやるよ」
 そう言ったパーンとクレオはしばし、無言で見つめ合ってしまった。
「パーン」
「…何だ?」
 クレオは、ため息をひとつ付いた。
「…やっぱり、馬鹿なんだなお前。それでは何の解決にもならないだろう。もうちょっと真面目に答えたらどうなんだ、まったく」
 まじまじと、バカだと断定されてしまった。
「おいおい、精一杯真面目だったろ、今の!」
 かなりショックのパーン。
「本当なら、今のでキュ〜っとなってだな、ちゅーとかしちゃうのもあって良いくらいの展開だった…」
 なんだか、何を一生懸命力説しようとしているのか、パーンも分からなくなってきてしまった。
「あー、やめたやめた。ちゅーっていっても、相手がお前じゃなあ」
「そうだな」
 そう言って、少し笑った。
「でもまあ…、覚えておくよ」
「ちゅーを?」
「違うよ、馬鹿」
 ぐいっと、さっきの頬をつまんで自分の背の高さに引き寄せた。
「いーでででで!」
 そこに、ちょっとだけ柔らかい感触を感じたので、パーンはぴたりと口を閉じた。一瞬、クレオの顔がもうこれでもかと言うくらい近くにあった。
(…まつげ!)
 いかにも現実味が無いことに思えた。
 この女の睫毛を、こんな近くに見ることがあるだなんて、とにかくあり得なかった。
「いつまでもそこに突っ立ってるんじゃないよ、邪魔なんだから。私はもう寝るよ」
 言うが早いか、すっとついたての奥に見えなくなってしまう。言われた側からぽかんと突っ立っていたパーンだったが。
「…ええと、そういえば、腹が減ったかな」
「勝手にしろ」
「そうする」
 自分の意志でないような奇妙な動きで部屋から出たパーン。
 それからちょっと首をひねり、自分の頬をつまんでみた。
「いてててて!」
 すっかり腫れていた。
 涙目で頬をさすりつつ、
「痛えんだよ、まったく…」
 ぶつぶつ言いながら、すっかり損した気分になってレストランへと歩き出した。


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クワンダの兜の角に頭をぶつけて
たんこぶでもたくさんこしらえたら良いよ!
なんだあのED後この野郎!