おふたりさん A

「青面獣、お主せめてもう一枚、中に着たらどうだ」
 突然そのようなことを一清に切り出されて、揚志は声を上げて笑った。
「何だい一清。今更気にするような年でもないだろ。いいんだよ、あたしは。これで動きやすくていいのさ」
 そう言って笑う揚志のはだけた胸元は、ほとんどむきだしと言っても良い状態だ。笑えば揺れるといった具合。
「お前はいいかもしれんが、気にするものもおろう」
 特に、揚志には上着を脱ぎ捨てる癖があった。そうなるともう目も当てられない状態になる。
「馬鹿だねえ!あたしを女だと思ってる奴なんざここにいやしないよ」
 一清が渋い表情のままでいると、揚志はやれやれという風に肩をすくめた。
「しかしだ!」
「くどいよ!」
 喧々囂ガク。
「何だいお二人さん。仲が良いねえ〜」
 ちゃかす口調で割り込んできたのは、戴宗。それはもう正真正銘の泥酔者だ。
「戴宗殿!」
「おう、揚志。一清殿を困らせちゃあいけねえなあ〜。んン?」
 露骨に嫌な顔をされたのに構わず、なれなれしく首に腕を回して揚志の顔をのぞき込んでくる戴宗。
 この2人の相性はあまりよろしくない。
「酒クサ!は、離れないかい、この酔っぱらい!」
 両手を使って、力まかせに顔を押し戻そうとする揚志に構わず挫けず(!)、さらに一口煽って、
「なあ、いいか?一清殿のいうことは至極もっともだぞお?例えば俺がここでスッ裸になるとすんだろ?したらよ、俺は立派な犯罪者になっちまうよなァ。だろぉ?わかるだろお?エ?」
「……!」
「……!」
 さすがの揚志も、一清すらも言葉を失ったのは、彼がどうやら自分の発言を実行に移し始めたらしいからで。寸前で我を取り戻した揚志は。
「う、うおおおおおおお!!!」
 必殺の気合いで出した右フックは、中条長官もかくやという破壊力で戴宗の顔面を直撃した。戴宗の体が見えないところまで飛んでいったことを確認してから、揚志はさわやかに一清を振り返る。
「一清、あたしが悪かったよ。あの変態と一緒は死んでも御免だ」
「分かってくれて…まあ、大変有難いが」
「これが動きやすくて良かったんだけどねえ。ま、適当になんか探してくるさ」
「…それなんだがな」
 と、いろいろと物が入っている懐から、サラシを取り出す一清。それを見た揚志、どうやら気に入った様子。
「こいつはいいね!気が利いてるじゃないか」
「こういうものならお主もあまり抵抗無かろうと思ってな。術も施してあるから防護にもなろう」
「ああ。有難く使わせてもらうよ!」
 言うやいなやその場でサラシを巻き始める相棒。目を覆わんばかりの光景に一清は思わず頭を抱えてしまいたくなる。――今日は自分の提案が受け入れられたことを良しとしよう。
「どうだい、一清」
「ふむ、良い感じだぞ青面獣」
 揚志もご機嫌だ。
「これは戴宗殿にも礼を言わなければならんなあ」
「なんで戴宗殿が出てくるんだい!?」
 とたんに機嫌を損ねた様子の揚志に、ひとつため息をついて一清。
「…ならば出なかったことにしておくか」
「そうしといておくれ」
 もとの機嫌を戻した揚志、腹の足しになるものを探しに行ってしまう。
 そんな彼女を見送って、ついついぼやいてしまう一清。
「収まるところにさっさと収まってもらった方が、こちらは助かるのだがな」
「無理無理。あの2人でしょう?」
 どこから出てきたのか村雨ケンジ。ネ、とおどけて笑う男につられて、渋面の一清も苦笑する。
「そうだな。なにしろあの2人ではな…」
「一清殿も苦労人ですな」
「それもやむなし、だ」


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脱ぎっぷりが良すぎて…。