節分家族3(番外編)

 雪どけを間近に控え、雪を薄く肩に乗せた木々の新芽も控えめに膨らんできている。しんと冷えた空気を胸一杯に吸うと、そんな木々のさわやかな息づかいをじかに感じるようだ。
 狭い山道を、2人並んでよけいに狭くしながら、旅の2人連れが歩いている。


 1人は、まるで山賊のような出で立ちをした、大柄の若侍。それと分かるのは腰に刀を佩いているからだ。
 もう1人は天蓋を深くかぶった虚無僧で、天蓋を上げたその頭には、意外なことに頭髪がまるでない。
「これは、大分ひなびたところにきてしまったようじゃな」
 街道沿いの道では人の行き来のために土肌が露出していた足下も、今では白一面、かろうじて誰かのわらじが残した土くずが、そこに道があることを示しているに過ぎない。そして、今日になって誰一人、自分たちと行き違った者がいない。
「それでいいよ。大作たちにもすぐには見つからないだろうしね」
「それは確かにそうだが、これでは我々の今日の宿もみつからんぞ」
「別に、野宿だって死にはしないさ」
 気楽に笑う若侍。虚無僧は呆れる。
「お主と一緒にされては困るぞ揚志」
「あんた、いつからそんなにか弱くなったって言うんだい一清」
 虚無僧、一清はそれには答えず、帯にさしてあった尺八を口にくわえた。静かな山あいに、しばしの間一清の奏でる尺八の音色が響く。しっとりと雪につつまれた風景に、それは良くなじんだ。
 尺八から口を離した一清の横で、その音色の名残を惜しむようにウットリと目を閉じていた若侍、揚志がふと道の脇に顔を向けた。
 いつの間にか、薄汚れた着物に身を包んだ男が木の脇に立っていたのだ。2人の旅人を、おどおどと見比べている。
「なんだい、お侍様がた…なんでこんな道を歩いているかね」
「あたしたちは旅の者だよ」
「すまぬがお主、近くに村があるなら案内してもらえぬか。もう日も傾いてきたでな」
「この近くに村なんかねえ。あんたら、今からでもこの道を戻れば宿場につくさね。そのほうがいいよ。そうしな」
「しかし、ここに道があるということは、この先に誰か住んでいるということであろう」
「あたしたちはただ、一晩おいてもらいたいだけだよ。猟に使う小屋でも良いんだ。使わせておくれよ」
「そう言われても…困るだ。帰ってくれ」
「そう言われてもねえ…」
 と、顔を見合わせる揚志と一清。この男の言っていることは明らかに怪しい。しばらく互いに無言でにらみ合い、やがて折れたのは男の方だった。
「このままじゃどっちみち戻れなくなっちまうな。しかたねえ、ついてきな」
 そういって獣道に踏みいる男の後を、2人は黙ってついて行った。
 遠くで鷹がひとつ鳴いた。

 道すがら、男は2人に忠告をした。村に入ったら、なるべく人目につかないようにすること、決して家の外に出ないこと、一晩泊まったらすぐに村を出ること、そして詮索しないこと。それらの忠告を素直に聞く2人。長いこと山の中をうろうろと歩き回り、唐突に木々の合間に灯りが見えてきた。
「あれが俺たちの村さ」
 そういって歩き出す男の後について、2人も村に向かって歩き出す。木々が途切れるところで2人に待つよう言い、男が麓に歩いていくと、たいまつを持った者が近づいてきて男を呼び止めた。
「おい、ずいぶん遅かったな」
「ああ」
 男は辺りを見回す。
「大丈夫、奴らはここにいない」
「そうか」
 ここでようやく男はこちらを振り返って手招きをしたので、一清と揚志は木の陰から出てきた。
「お、お前…」
「仕方ないだろ、帰れって言ってもきかねえんだ。むざむざ見殺しにするのも気分が悪かったからな」
「…そうか。おい、あんたら。頼むから面倒は起こすなよ」
「うむ、感謝する」

 男に連れられて、村はずれの民家に案内される。そこが、男の家のようだ。
 中にはいると、娘が2人を見て驚いた。
「あんた、この人達は…」
「すまねえな、道で難儀してたみてえだからよ。一晩だけだ」
「ご厄介になります」
 軽く頭を下げる2人を、娘は明るく土間に誘った。
「まあ、そうでしたか!それは災難でしたねえ。何もおかまいできませんけど、ゆっくりしてってくださいな」
「ゆっくりされても困るだろ、お前」
「そんなこというもんじゃありませんよ、お客様に!ささ、こちらにどうぞ」
「はあ…」
 困り顔で囲炉裏の側に腰を下ろした2人。狭い家の中をちょっと見回すと、そここに転がっているのはこけし人形。場所によっては、こけしは亡くした子供を思ってあつらえるものだが、その数たるやちょっと尋常ではない。
 ひとつ取り上げてしげしげと眺めている揚志の手元をのぞき込んで、一清、そのこけしに色が付いていないことに気づく。
「これは…お主達が作っているものか」
 一清の言葉に、きょとんと感心した風に顔を上げる揚志。
「ええ、この村はこけし作りで生計を立てているんですよ」
 愛想良く答える己の妻のとなりで、忌々しそうに2人を見やる男。詮索してほしくないようだが。
「そうなんだ。へえ〜、かわいいじゃないか」
 他のこけしを取り上げて眺めながら、無邪気に喜ぶ揚志。
「お気にめしましたか?よろしかったら差し上げますよ」
「お、おい!」
 たしなめる男の声は大げさなほどに焦っていた。
「いいじゃないの、1つ2つ!」
「ほんとかい?嬉しいねえ!」
「ほら、あんなに喜んでもらえて」
「お前ナア…」
「揚志」
「ン?」
「そのこけしはお返しした方がよいようじゃぞ」
「なんで??」
 きょとんとする揚志の手からこけしをとりあげ、それを男の手に返す。
「我々は一晩とめていただくだけで結構。そうでしたな」
「あ、ああ」
「恩を仇で返すところでござったな、申し訳ない」
「い、いや、すまねえな。俺たちも生活がかかってるでな」
 不満げな揚志の横に元通り腰を下ろした一清は、ふむ、と、ひとつ頷く。
「お主らに迷惑をかけてあいすまぬとは思っているが、良ければ我々を道で引き留めた理由をお聞かせ願えないかな」
 困惑顔の男。隣の妻をみて、ため息をひとつついて、この村のことを話し出した。

 もともとこの村は収穫のない冬の時期にはこけしづくりで生計を立てていた。原料となる木材、それに染料の材料も山で用意でき、工芸品として喜ばれていた。
 それに目をつけたのが、この辺りを仕切る庄屋。ヤクザ者達と手を組み、年貢と一緒にこけしにもノルマを課して、村人達をほぼ軟禁状態にしてこけしを作らせるようになった。集められたこけしは法外な値段で売られ、国外にまで出荷されているという。

「ひとつでも数が足りんとなると、ひでえ目に遭う。それに、このことを外に知られんように、よそ者はヤクザ者達に殺されるって話だ」
「むうう…」
「酷い話だね」
「な、だから明日は気づかれないように、早いうちにでてってもらう。悪いけどもな」
「いや、こちらこそ大変なところにお邪魔したようじゃな。分かった。そういうことであれば長居はせぬ」
「ああ、有難い」
「すみませんねえ、本当ならゆっくりしてもらうところなんですけど」
「いいっていいって。それよりさ、ネエ…」
「はい?」
「あの、お腹減って…」
 珍しく小声になる揚志。夫婦は顔を見合わせて明るく声を上げて笑った。
 そして一清は、頭を抱えている。

 前日、侍と僧侶の2人連れが通ったその道を、朝日がまだ顔を出し切らないうちから一騎の騎馬が駆けていた。馬の上には前髪も初々しい、元服したばかりといった様子の、みるからに立派な出で立ちの侍だ。寒さに頬を紅潮させながら、人気のない山道をひたすらに駆け抜ける。
 その騎馬の前に、あまり人相の良くない男達が立ちはだかった。
 侍は男達の前で馬を止めた。
「すみません、人を捜しているのですが」
「人?」
「はい。山賊みたいな格好をした人と、虚無僧の2人連れなんです」
「しらねえな」
「そうですか」
 そう言って侍は馬を進めようとするが、男達は道を譲ろうとしない。
「すみません、どいて頂けませんか?そちらに行きたいんです」
「ここから先には何もねえよ。帰りな」
「あんたの探しているヤツらはこっちには来てねえよ」
「でも…」
 なおも侍が留まろうとすると、いつの間にか背後に回っていた男連中の1人が、不意打ちで侍を馬上から引きずりおろした。
「うわっ…」
 あっというまに手足を縛られ、猿ぐつわをかまされる侍。男達は驚いて竿だつ馬の手綱をとり、手際よく馬をなだめる。
「よし、馬も逃がすな。どうも身なりの良いガキだ。下手に手をださん方が良いだろう」
 そう言った男がどうやらリーダー格のようだ。
「屋敷に連れ帰るぞ」



──CM──


 早々に村を出る予定だった一清と揚志だったが、なにか騒動があったらしく、村人達はすでに起き出しており、出るにでられない。そわそわと落ち着かない揚志。対照的に、一清はじっとあぐらをかいたまま動かない。
 そこへガラリと戸を開けて、出払っていた男が戻ってきた。
「どうやらよそ者がきて捕まったそうだ」
 一清と揚志が次の言葉場を待つ。言いにくそうにしていた男だったが、仕方なくと言う風に言葉を続けた。
「どうも、あんた達を探してたみたいだ。若いお侍だそうだ」
「むう…」
「一清」
「ああ…大作だな」
「知り合いなんだな」
「うむ…」
「一清」
 一清の顔をのぞき込んでくる揚志に、ひとつ頷く。
「結局面倒を起こしてしまったようだ。すまんな」
「お、おい、どうするつもりだ」
「すまぬが、面倒ついでに頼まれてはくれぬか」
 一清の言葉に、夫婦は顔を見合わせる。

 辺りを収める庄屋の屋敷に、村の者がやってきたのは、それから少し後のことだ。話によると、村に入ろうとした余所者を捕まえたという。
「そいつら、今朝捕まえたガキを出せと言ってるんで」
「ほう。しかし、そいつらは身なりも粗末な浪人風だと聞いたが」
「それが、ガキが探してると言っていたやつらの風体にピッタリなんでさあ」
「そうかそうか。よし、つれてきてみろ」
 グルグルとあらっぽく縄をかけられ、つれてこられたのは確かに浪人風の2人。1人は山賊風の出で立ちで、もう1人はみすぼらしい虚無僧の出で立ちだ。周囲を囲まれながらもまったく臆した風もなく、辺りににらみをきかせている。
「貴様達か、村人の話に寄れば畑を荒らして作物を盗もうとしたそうだな」
「なんだって!あたしらはただ人を捜しに来ただけだよ。なんで捕まらなきゃならないのさ」
「さよう、そのような事をとがめ立てされる覚えもない」
「盗人猛々しいとはこの事だ。本来なら泥棒は私刑にするところだが。一応彼の知り合いのようだからな」
 庄屋の隣には、とらえられた大作の姿がある。意識はないようだが、怪我はしていないようだ。大作の姿を認めて、2人の血相が変わる。
「大作!」
「大作というのかね、ふむ。して、彼はどちらの若君かね?」
 庄屋の手にある大作の小柄には、立派な家紋が彫り込まれている。それをこちらに向けながら、庄屋はにやにやといやらしい笑みを浮かべている。身代金でも取ろうという腹づもりなのは揚志にすら想像がつく。
「浅はかな。そのようなことも分からずに大作を捕らえたというのか。笑止」
「偉そうな前置きはよろしい」
「そこなる若者は紀州藩に遣える名家草間家の長男大作殿だ。そのように扱って良い者ではないぞ」
 厳しい口調の一清に向かって庄屋はさも愉快そうに声を上げて笑った。
「ほうほう、紀州の若侍ですか!これは確かにたいしたお方のようだ。そのようなお方がやくざ者をつれて村の者に手をかけたとなると、紀州の方々にも大変な迷惑がかかってしまうのではないですかね」
「なんだと!やくざ者はあんたたちだろ?」
「おぬし、何を言いたい?」
「そっちのお坊様の方が物わかりがよろしいようですな。村で狼藉を働いたので、やむなく供の者を手にかけた、だがさすがに将来のあるお侍様、しかもご身分もやんごとないようなので、しかたなく我々は示談ですまそうと、そういっているのだよ」
「ぬう…なんと不埒な。聞けば村の者にも無理な労働を強いていると聞く」
「そんなもの。貴様らが運んでくれる事になる示談金が入れば、今更こけしなどでせこせこと小金を貯める必要もなくなるだろうよ」
「なんだって!!」
 突然大声を出したのは揚志だ。怒りの形相で仁王立ちになって庄屋をにらみつける。その剣幕に、とりかこんだやくざ者達もたまらず数歩後じさった。
「あんたたち、この村の人達がどんな思いでこけしを収めているとおもってるんだい!それを、『こけしなど』だって!?聞き捨てならないね!」
「…ふん、聞き捨てならないなら、どうすると言うんだ?そのように縛られて身動きすらままならないではないか。貴様らには感謝しているよ。お陰で草間家の若君にもお近づきになったようだ」
「つくづく見下げ果てた悪漢よ」
「ふん、なんとでも言うが良い。やれ!」
 さっと庄屋が手を振ると、やくざたちが一斉に2人にむかって躍りかかった。
 もはや絶体絶命!
 その時!

 キュイイイイン!

 甲高い声を上げて飛び込んできたのは1羽の立派な鷹。一清と揚志に襲いかかろうとしていた男達は、突然飛び込んできた鷹に、パニック状態になる。
「揚志!」
「おうさ、一清!」
 ばっと2人を戒めていた縄がほどけ、体が自由になる。
「なんだと!」
「このようなこと児戯にも等しい術だ」
「身動きすらままならないって?良く言ったね、この悪党!」
「もはや貴様ら悪党に御仏の慈悲はないことを知るが良いぞ!」
 そして2人が上着に手をかけ、一気に脱ぎ捨てると、そこにはなんと、羽織袴の見事な出で立ちの武士が2人。
「さあ!死にたい奴からかかって来な!」
 手にした棍をどかりと床に打ち付ける揚志。棍を持った側を片袖脱ぎし、あらわになった上半身に巻かれた白いさらしが眩しい。
 庄屋は今更ながら、その若侍の肌が上質な青磁器の、ぬけるような青い色をしていることに気づいた。
「貴様はまさか、青面獣!」
 その声はほとんど悲鳴だった。
「そうだよ悪党、紀州大納言、青面獣の揚志とはあたしのことだよ!」
「そして尾張大納言、公孫勝一清道人とは拙僧の事なり」
 揚志が棍をひとつ振るえば、ならず者どもが2、3人一度にふっとぶ。一清が取り出した札に念を込めて剣を一振りすれば、札は大蛇と化して悪漢に片端から食らいついていく。
 庄屋は言葉もなく、腰を抜かしてその様子を見守ることしかできない(きっと兄もこんなことになったらビビる。ビビリまくる。…余談だけど)。
「さあ、覚悟は良いかい、悪党め!」
「地獄に行って罪を償うが良い!」
「…ギャーーー!!」
 一清の剣と、揚志の棍が同時に庄屋に振り下ろされた。

「ほんとうに、ありがとうございました」
 深々と頭を下げる夫婦に、揚志は照れたように腕を振った。
「いいんだよ!結局、これもいただいちまったしね」
 そういう揚志の手には、件のこけしがある。
「いい土産になったよ。ありがとう」
「長居をしてしまいかたじけない」
「そんな!お礼を言うのはこちらの方です」
「お陰で、これからは元通り、穏やかにくらせます」
「それは何よりだ。のう、揚志」
「ああ。それじゃ、ここらでおいとまするよ」
「ちょっとまってください、こちらのお侍様はどうなさるんですか」
 男が慌てるのも無理はない。大作は未だ意識を失ったまま、娘に介抱されている。
「そいつはそのまま寝かせておいてくれ。くれぐれも起こすんじゃないよ」
「もし起きて我々の行き先を尋ねたなら、あちらに向かったと答えてくれ」
 そう言って錫杖で指す方向は、彼らが発とうとしているのとまったくの反対。
「はあ…」
「頼んだぞ」
「じゃあね!」
 夫婦は、2人の行く先をいつまでも見送るのだった。

「あれ…。ここは?」
「おや、お侍さん。起きなさったかね」
 ぼんやりと周囲を見回す大作に、水を器に入れて差しだしてやると、それを一口ふくむや否や、はっと我に返ったように身を起こした。
「世話になったようでありがとうございます。お礼をしたいところなのですが、僕は人を訪ねて一刻を争う身。まことに申し訳ないのですが、もしご存じでしたら、虚無僧とぞんざいな身なりの侍の2人連れを見かけなかったかお教え頂けませんか」
 一気にまくし立てる大作に呆気にとられつつ、男は2人が言い残していったように、行き先と反対の方向を教えてやった。すると大作は居住まいを正して2人に頭を下げるので、これまた男は呆気にとられた。
「世話になったどころか、お二方の行く先まで教えて頂き、まことにかたじけありません。あのお二方は僕のお仕えしている紀州が大納言、揚志様と尾張大納言一清道人様。どちらかが時期将軍になろうというやんごとなきお方達なのです。僕はお二人をお城に連れ戻すべく使わされた者です。おかげさまでお役目を果たせます。それでは、いずれ必ず礼をさせていただきます故」
 そう言ったが早いか家から飛び出し、外に繋いであった馬にまたがり、言われた方向に走り去っていく大作。夫婦はしばらく、惚けたように顔を見合わせていた。

「やれやれ、危ないところだったね」
 どうあぶなかったかというと、大作少年に捕まるところだったという所。
「これでしばらくは時間も稼げるじゃろう」
「やれやれ、最初は甘く見てたんだけどね」
「うむ、どうしてどうして、なかなか手強い追っ手だな」
 一清も苦笑して答える。
 2人は再び、街道に戻って旅を続けていた。賑やかに人が行き交う街道だったが、2人の風体は浮いていた。
「だいたいだな、一清。あんたのその扮装、狙いすぎててかえってわかりやすいんじゃないのかい?」
「異な事を申す。だいたいが、お主のその青い肌のほうが目立っておろう。少しは隠せ」
 それは確かに。
「どうやって隠せっていうんだい、この生臭坊主。だいたい、あんたが家に帰って将軍になるって、ひとつ頷いてくれれば事は済むんだ。あたしものんびり旅を続けられるってもんさァ?」
「それを言うならお主の方だ。大作はお主の家の者であろうが。お主が家に戻れば儂は自分の城でのんびり暮らせるのじゃぞ」
「ふん…」
「むう…」
 しばしお互いに言葉を探しあう2人だったが。
「あーあー、まったく!良い天気だねえ」
「はは…、まったくだな」
 そう言って2人は笑い合い、抜けるような青空の下を再び歩き出した。



「は〜い、お疲れ様でした」
 ディレクターの声に、スタッフがやれやれと撮影器具から手を離す。
 スタッフ達に声をかけてねぎらう一清と揚志の前に、1人の男が現れた。
「中条殿」
「長官、お疲れ様です!良い演技でしたよ」
「そ、そうかな…」
 照れたように頭をかく中条。庄屋役として今回ゲスト出演、見事大役を果たしたところだ。
「いやあ、それにしても、一清君に揚志君。良かったよ!」
「はあ…」
 いつになくはしゃいでいる様子の中条に、どうにも調子が合わない2人。
「実はね、私は君たちの番組のファンなんだよ!第1回から見てるよ、『若様・風来坊主はぐれ旅』!」
「え?」
「ほんと!まさか、私が若様風来坊主に出演できるなんて!しかも、君たちと一緒にだよ!あ〜、もう今日は我が人生最高の日だよ!なんと礼を言って良いか」
 2人の手を代わる代わるに取り、ぶんぶんと振りまくる中条長官。…はしゃぎすぎ。
「君たちのこと、応援してるからね!頑張ってくれたまえ!」
 そう言って脱兎のごとく彼方へ駆け去っていく、国際警察機構北京支部長官、人間爆弾・中条。
「中条殿…?」
「だよなア?」



◆  ◆  ◆  ◆  ◆


 お子様からお年寄りまで誰もが知ってる人気時代劇「若様・風来坊主はぐれ旅」に出演している揚志と一清。彼らの大ファンの中条長官。Gロボ本編でも、彼らの登場シーンで中条殿喜びすぎ。絶対にファン。
 「殿様風来坊隠れ旅」の方は、残念ながら、最終回を含むたったの2度しかみれなかったのですが(T_T)、今でも知る人ぞ知る傑作痛快時代劇。だいたいこのような内容で(刀を差していたのに得物は槍・笑)、もっとおもしろキャラが登場していたように思うのですが…平賀源内とか(笑)!

 そうそう。虚無僧ってのは武士のみがなれる托鉢僧で、基本的に有髪だそうで。