ニケア
オロクさんがようやっとダメージから復活して、突っ伏していた上体を起こすと、いかにもこちらに声をかけたものかという案配で、ルセリナが心配そうに伺っているのと目があった。
電車から降りると、どんよりしていた雲からついに雨粒が落ち始めてきたようだった。 「あー、やっぱり傘持ってくるんだった…!」 レルカーまでこのまま歩いて帰る気にもならず、ニケアはとりあえず駅前のファーストフード店に入る。 (誰か通りがからないか…
すたすた、とあまり遠慮を感じない足音がこちらに近づいてくるのを背中に聞いて、ニケアはちょっとだけ気が重くなった。 (あの人、苦手なんだよね…) 偉そうだし。 時々見ていられないようなことがあっても、全然平気そうにしていたり。そういうところもす…
「これでは、たいした金額にもならぬな」 たくましい眉を器用に持ち上げて、アズラット老人は断言した。 「なんだと?」 苦労してレルカーから運んできた本の山を背に、オロクは憮然と問い返した。
狭い歩道に積み上がったケース入りのニンジンやらダイコンやら、それをあれこれと吟味する年季の入った主婦だとか、それらを避けて走る自転車だとかとすれ違いながら歩くのは、なかなか容易なことではない。