幻想水滸伝5
その日、ザハークがレルカーに通うようになって、はじめてまともに、オロクから頼みごとをされた。
ガラガラ、と乱暴に玄関の戸口の開く音。ニケアあたりが帰ってきたのか、とワシールが顔をのぞかせると、そこにいたのはレルカーの住民ではなかった。 「…これは、ザムザくん。いらっしゃい」 「うむ。オロクはいるかな?」
しとしとしとしとしとしとしと、雨は止みそうで止まない。子供たちが学校から帰ってくるにはもう少し。路地はつかの間、穏やかな静寂の中。 ザハークは窓際にミニちゃぶ台を移動させて、ポメラを開いたまま、のんびり外の様子を眺めている。
オロクさんがようやっとダメージから復活して、突っ伏していた上体を起こすと、いかにもこちらに声をかけたものかという案配で、ルセリナが心配そうに伺っているのと目があった。
電車から降りると、どんよりしていた雲からついに雨粒が落ち始めてきたようだった。 「あー、やっぱり傘持ってくるんだった…!」 レルカーまでこのまま歩いて帰る気にもならず、ニケアはとりあえず駅前のファーストフード店に入る。 (誰か通りがからないか…
ベランダに出た彼は、こちらを振り向くとやたら晴れやかに笑った。 「何度みてもここからの眺めは良いな」 妙なことを言うものだ。
すたすた、とあまり遠慮を感じない足音がこちらに近づいてくるのを背中に聞いて、ニケアはちょっとだけ気が重くなった。 (あの人、苦手なんだよね…) 偉そうだし。 時々見ていられないようなことがあっても、全然平気そうにしていたり。そういうところもす…
はずかしいピンクの3輪自転車に、くくりつけられたやはりピンク色の荷台。どういう意味か分からないが殴りかかれている「069」の数字。 そして、何故かがんじがらめに縛り上げられて荷台に載せられているオロク。 3輪自転車を楽しそうに漕いでいるワシ…
「これでは、たいした金額にもならぬな」 たくましい眉を器用に持ち上げて、アズラット老人は断言した。 「なんだと?」 苦労してレルカーから運んできた本の山を背に、オロクは憮然と問い返した。
それは幼稚園 ボルガンと向き合うことしばし、ロイは沈黙したまま足下をにらみつけている。
珈琲はお好きですか? 駅前の通りの、知っている人だけが通り抜けるような細い路地の先に、小さな珈琲専門店がある。店舗はあまり狭い方ではない。女性の好むような菓子の類がほとんど置かれていないためか、いつ入っても、暇そうな男性客が数人、ダラダラと…
雪かき日和 その年の年末は、珍しく雪が降った。そのタイミングで降らなくてもよいだろうに、というタイミングで。
狭い歩道に積み上がったケース入りのニンジンやらダイコンやら、それをあれこれと吟味する年季の入った主婦だとか、それらを避けて走る自転車だとかとすれ違いながら歩くのは、なかなか容易なことではない。