節分家族3(番外編)

 雪どけを間近に控え、雪を薄く肩に乗せた木々の新芽も控えめに膨らんできている。しんと冷えた空気を胸一杯に吸うと、そんな木々のさわやかな息づかいをじかに感じるようだ。
 狭い山道を、2人並んでよけいに狭くしながら、旅の2人連れが歩いている。

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節分家族2

 パチリ。
 と、まぶたを開く。
 気づくと、ベッドから身を起こしていた。時計を見ると、いつも起きる時間の1時間前。
 と、いうことは。
 ようやくヒィッツカラルドは意識がはっきりした。
 アルベルトが帰宅しているのだ。

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節分家族1

 …カタタン………タタン……。
 かすかに電車の走る音が聞こえてくる、そんなひっそりとした帰路をイワンは一人歩いていた。
 いつもの通勤鞄に、左手には深夜まで営業しているスーパーのビニール袋。買い物と言うにはささやかなその中身は、から煎りした豆。
 今日は節分の日なのだ。
 道々、元気なかけ声がそここの家から漏れてくるのが、大変微笑ましい。イワンの足も自然と速まる。

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ポメラの来た日 9

 ガラガラ、と乱暴に玄関の戸口の開く音。ニケアあたりが帰ってきたのか、とワシールが顔をのぞかせると、そこにいたのはレルカーの住民ではなかった。
「…これは、ザムザくん。いらっしゃい」
「うむ。オロクはいるかな?」

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I.G.A.夜の部

 カタリ。
 グラスの中の氷が静かに揺れて音を立てた。その音を愉しむように一口、口に含む。
「ふむ…」
 満足げに目を閉じる。店内には静かにピアノが流れている。
 ADIEU。クセのない、控えめの演奏はこの狭い店に良く似合っていた。

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おふたりさん B

 その2人が対峙するのは今回が初めてというわけではなく、その度に、壮絶な死闘が交わされてきた。
 そして今回も。
 アルベルトと戴宗。
 周囲に彼ら以外の人間はいない。アルベルトの相手が出来るのは、その場に戴宗しかいなかったからだ。そして、戴宗の相手を出来るのもまた、アルベルトしかいなかったためだ。

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